岡田秀文『源助悪漢(わる)十手』(光文社時代小説文庫)★★★

江戸市中に悪名を轟かす浅草西仲町の源助親分が難事件・怪事件に挑む連作集。7篇収録。以下、各篇の簡単な感想(真相に触れている部分は背景と同色にしています)
「山谷堀女殺し」(初出=『小説宝石』2002年5月号)
 山谷堀の岸で女の死体が見つかる。現場付近にいた別居中の夫が下手人と目されて捕らえられたが、真犯人は別にいると睨んだ源助は捜査を開始する――。真犯人を騙すために源助が開陳した偽の推理が良い。また、死体の頭だけが川に入れられていた理由に感心。
「井筒屋呪いの画」(初出=『小説宝石』2003年4月号)
 井筒屋徳兵衛から家宝の掛け軸を盗賊の手から守ってほしいと頼まれた源助。源助、子分の平太、井筒屋の三人で蔵に詰めて掛け軸を守りぬいたが、盗賊が予告した晩に井筒屋の妻が変死していた――。バカバカしい真相に笑ってしまった。
「猿屋町うっかり夫婦」(初出=『小説宝石』2007年6月号)
 吾妻橋近くの川岸で金貸しの甘太郎の死体が発見された。甘太郎の弟の指物師亀治郎とご近所トラブルで揉めている扇屋のうっかり夫婦が事件を引っ掻き回し、源助は頭を抱える――。うっかり夫婦のキャラが良い。事件は未解決で終わるのだが、音で気づけよ(笑)。
下谷神隠し三人娘」(初出=『小説宝石』2005年7月号)
 下谷小町と囃される材木屋の娘が二人、神隠しにあった。二つの共通点から次に神隠しにあうのは材木屋『南山』の娘に違いないと睨んだ源助は用心棒を買って出るが、その娘は売り出し中の関取と瓜二つという大女。押しかけた手前、嫌々用心棒をするが、稽古事の帰りに目を離した隙に娘が神隠しに――。『南山』の娘が強烈。「見えない人」トリックが出てくるとは思わなかった。
「元吉町の浮かび首」(初出=『小説宝石』2008年8月号)
 行商の女古着屋から相談を受けた平太。遠縁の父娘が妖術師に入れ込んでおり、御霊会(ごりょうえ)で大変なお告げがあるというのだが、何か起こりそうな気がするので立ち会ってほしいという。御霊会に参加した平太は、首と胴が離れ浮いた首がご託宣を述べるのを目の当たりにし、腰を抜かす。それから二日後、父娘が失踪し、幻術師が自宅で首なし死体で発見される――。ホラーの要素が入った一篇。犯人が見えみえだったのが残念。
「富次郎の金壷」(初出=『小説宝石』2004年5月号)
 源助に捕らえられた女、おトシ。与力・梅澤彦左衛門に彼女は語る、己の半生と誰も知ることのなかった罪の数々を――。おトシの男運の悪さといったら……。
「茅町伊勢屋の藤十郎(書下ろし)
 茅町の太物屋『伊勢屋』を訪れた若者。二十二年前に匂引(かどわかし)にあった息子の藤十郎だと名乗るが、本物だという証がない。これを聞きつけた源助は、真贋を見極め礼金をふんだくるつもりで騒ぎに首を突っ込む――。藤十郎の真贋は予想通りだったが、こういう展開になるとは思わなかった。
多岐川恭胡桃沢耕史の悪漢岡っ引と比べると、本作の源助親分は魅力に乏しい。江戸時代、本当に小悪党が岡っ引をやっていたので、もっとワルでも良かったと思う。ミステリーとしては結構良く出来ているので、普段捕物帳を読まないミステリーファンにもお勧めできます。

源助悪漢(わる)十手 (光文社時代小説文庫)

源助悪漢(わる)十手 (光文社時代小説文庫)