大山誠一郎『アリバイ崩し承ります』(実業之日本社文庫)★★★☆

5000円でアリバイ崩しを引き受ける美谷時計店の店主・美谷時乃が鮮やかにアリバイが絡んだ事件の謎を解き明かす、安楽椅子探偵物の連作集第1弾。『2019本格ミステリ・ベスト10』第1位。
「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」(初出=『月刊J-novel』2014年10月号)
 県立医科大学の教授・浜沢杏子が自宅で殺された。発見した妹の安奈は、ストーカー化した杏子の元夫・菊谷吾郎が犯人に違いないと言う。葬儀に姿を現した菊谷を聴取すると、彼には鉄壁のアリバイがあることが判明する――。
「時計屋探偵と凶器のアリバイ」(書下ろし)
 指定暴力団・白嵐会と小八木組の小競り合いが繰り返されている最中、郵便ポストから血液が付着した小型拳銃が発見され、翌日、大村製薬社員・布田真の射殺死体が自宅で発見された。白嵐会に医療用モルヒネ横流ししていると思われる上司の平根勝男の犯行としか考えられないが、彼には鉄壁のアリバイがあった――。
「時計屋探偵と死者のアリバイ」(初出=『月刊J-novel』2015年10月号)
 交通事故の現場に遭遇した僕は車にはねられた男から殺人の告白をされ、自供通りにマンションで中島香澄の絞殺死体が発見された。病院へ搬送中にその男―推理作家の奥山新一郎―が死亡したため裏付けの捜査を開始すると、彼に鉄壁のアリバイが成立してしまう――。
「時計屋探偵と失われたアリバイ」(初出=『月刊J-novel』2016年3月号)
 個人レッスン専門のピアノ教師・河谷敏子の絞殺死体が自宅マンションの防音設備を施した部屋で発見された。家と土地の相続で揉めていた妹の純子は夢遊病の発作を起こして殺したかもしれないと言うが、彼女の犯行と思えない僕は密かに捜査を開始した――。
「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」(初出=『月刊J-novel』2017年2月号)
 時乃が小学四年の時、祖父から出題されたアリバイ崩しの問題。それは、「店にある壁掛けの振り子時計を三時二十五分で止めるが、その時刻、歩いて三十分のところにある〈壁時計〉の前で写真を撮っていたというアリバイがある」というものだった――。
「時計屋探偵と山荘のアリバイ」(初出=『月刊J-novel』2015年4月号)
 休暇で長野県黒姫高原にあるペンション〈時計荘〉を訪れた僕は、宿泊客の黒岩健一がペンションにある時計台で殺さる事件に遭遇した。黒岩の本名は白田公司といい、大規模な特殊詐欺グループのリーダーだった。長野県警は宿泊客の中で唯一アリバイがなく動機のある中学生の原口龍平を犯人と睨むが、彼の無実を信じる僕は時乃にアリバイ崩しを依頼した――。
「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」(書下ろし)
 12月6日、健康器具販売会社を経営していた富岡真司が殺された。容疑者が浮上せず捜査は難航したが、2月末に富岡の家の庭から男性の白骨死体が発見されたことから事態は急変。白骨死体の主は富岡の部下で13年前に失踪した和田雄一郎と判明、息子で大学生の英介が最重要容疑者として浮上するが、彼には脆弱なアリバイがあった――。

相変わらずパズラーに殉じた短編で、潔いというか清々しいというか。タイトルから分かるようにアリバイ崩し縛りの連作となっており、丁寧に伏線を拾っていけば解ける易しい作りになっている(発想の飛躍も必要だけど)。各編クオリティが高く、バズれなしの連作集なのは凄いと思う。
★3か★3.5にするか迷ったが、全作水準越えの連作集ということで(甘い気もするが)★3.5にします。

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)