宮原龍雄「三つの樽」

二つの樽を積んだオート三輪とトラックが追突事故を起こし、樽の一つから裸の女の死体(被害者はモデルの若杉陽子と判明)が見つかる。運転手の証言によると、その樽には須田画伯の製作になる石膏の裸像が入っているはずで(運転手が積み込みを手伝い、石膏像を目撃している)、アトリエから樽を運び出したときには被害者は生きており、樽の出発を須田と二人で見送っていたというのだ。また、出発から事故までの五分間、オート三輪は一度も停車しておらず、樽の擦り替えは不可能だということがトラック運転手の証言により判明する。混乱する初動捜査の最中、三つ目の樽が出現し、その中から石膏像が出てくる。樽の魔術ともいえるこの難事件に、三原検事と満城警部補が挑む――。
宮原龍雄のデビュー作(旧『宝石』の「100万円コンクールC級」に三席入選)で、宮原作品の中で再録回数が一番多い作品(代表作としてよく挙げられるが、それはどうかと個人的には思う)。
提示される不可能興味が魅力的な非常に良く出来たパズル小説(当時の本格短篇としては申し分ないでしょう)だが、詰め込みすぎたため謎解きが駆け足になってしまったのが残念。また、(当時の選考会で指摘されていますが)大きな欠陥があるのも残念。なお、作中でF・W・クロフツ『樽』の犯人とトリックを明かしているので、未読の方は要注意。
(初出=『別冊宝石』6号(新鋭三十六人集)[S24.12])
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