辻真先『ブルートレイン北へ還る』(徳間文庫)★★★★

トラベルライターの瓜生慎はブルートレイン日本海」のルポと日本最東端駅探訪を書くため、大阪駅から東根室駅へ向かう取材旅行に出た。最初に乗車した「日本海1号」のトイレでまたもや死体に出くわした慎がジョーズ車掌長を連れて戻ると、死体が消えていた。一方、三ツ江財閥の令嬢で恋人の真由子は堂本編集長を説得し、取材という名目で慎を追うため特急「あけぼの3号」に乗り上野駅から秋田駅へ向かった。車中、ダイナマイトを持つ青年・後藤正吉、小学五年生の羽島俊、非常勤講師の坂西弥太郎・とね子夫妻と知り合い、休暇旅行中の鬼山警部と再会。真由子は同じデッキの鵜飼英司のアタッシェ・ケースに札束が詰まっているのを目撃、鬼山に確認してもらうが札束はなかった。また、正吉からダイナマイト1本と雷管が盗まれたと聞く。犯人は同じデッキの中にいるはずだが、誰か分からないまま秋田駅に到着。無事合流を果たした2人の前に、消えた死体の出現、上野駅の転落死、秋田駅のトイレ内の殺人、大金の一部の出現といった新たな謎が出現する――。
「トラベルライター瓜生慎シリーズ」第2長編。1980年3月刊。
本作から鮫村車掌長と坂西弥太郎・とね子夫妻が加入し、鬼山警部が再登場。
鉄分が増量された本作は、前作以上にガッチリ組み立てられた本格ミステリに仕上がっている。何気ない描写は勿論のことドタバタ喜劇(かなり力が入っている)にも伏線が貼られており、特に死体消失に関係する部分ではかなり大胆に書いていて感心した。
中盤である事実が明かされトリックの見当がつくがもう一段階踏み込まなければならず、見破るための小道具の扱い方が上手い。
また、前作を踏まえた部分があるがサブプットも上手く構築されているのは流石だ。
シリーズ最高傑作と評される次作『ローカル線に紅い血が散る』(1982年2月刊)に匹敵する第一期の秀作であり、鉄道ミステリの逸品だ。
(再読)