多岐川恭『首打人左源太事件帖』(徳間文庫)★★★

『首打人左源太』(双葉社)改題・再文庫化。
潮地左源太、三十一歳。水戸藩最強の剣士だった彼は密通した妻を斬り、藩の重臣の縁故者との仕合で相手を叩きのめして寝たきりにたため、家禄を取り上げられ浪人になった。剣の腕を活かし一人十両で罪人の首打ちを請け負う彼に、今日も依頼が――。
第一話「非情の風が渡る」
 町奉行所同心・堀野金介の紹介で、上総大多喜藩で仕事をすることになった左源太。不義を働いた陪審と前藩主の側室・鶴の斬首を滞りなく終えたが、処刑直前に二人と交わした会話について執拗に問い質される――。
第二話「まどろむ城下町」
 佐倉城下で出会った高瀬参右衛門からの依頼で、牛久で仕事をすることになった左源太。言い寄っていた百姓娘を殺し死罪を言い渡された按摩・法沢の処刑で首打ちの任を命じられた者たちの刀が揚がらなくなり、部外者の左源太にお鉢が回ってきたのだ。牛久へ到着すると、法沢は破牢していた――。
第三話「雪空に命が散る」
 お浪が壬生での仕事を持ってきた。当地に着いた左源太は依頼者の坪田宇之助と会い、家宝である拝領物の硯箱と短刀をそうとは知らずに売り払い女郎に貢いだ阿久常之進の斬首を依頼される――。
第四話「襲われた刑場」
 お浪たちと高崎に来ていた左源太は安中で首打ち役が要るとの話を聞いて足を運び、佐田善八郎から博徒の正三郎と百姓の梅吉の斬首を引き受けた。刑場を襲撃した暴徒に二人を奪われ、佐田を含む八人が死亡する。佐田との約束を果たすため、左源太は二人の首を打とうとする――。
第五話「代役は死んだ」
 仕事で沼津に来た左源太は、同宿の浪人・石川良太郎から仕事を譲ってほしいと頼まれたが断る。一人目の首を打った左源太だったが、二人目は試しを兼ねたものになったため依頼を断り、代わりに石川を紹介する。仕事を済ませた石川が帰路襲われ、金を奪われたうえ殺されてしまう――。
第六話「栄華の夢」
 棚倉での仕事を終え江戸に戻った左源太を、水戸藩の近習・笹本源五が訪ねてきた。彼は帰参の話を持ってきたが、左源太は断る。それから暫くして仙台から戻ってきたお浪がやって来て、棚倉で左源太が首を打った男の妻と娘が妾になっていたと話す――。
首打ち請負人・潮地左源太が事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりする連作の第1集。多岐川時代小説らしさはあるもののミステリーとしては薄いのでそういうものを求める人にはお薦めはできないし、発端は面白いのに途中で失速するエピソードが多いので、イマイチな感が強い。集中ベストは「まどろむ城下町」。

首打人左源太 (1983年)

首打人左源太 (1983年)