山本巧次『希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿』(講談社)★★☆

令和X年、講栄館の編集者・宝木啓輔は講栄館の中興の祖とも言われる伝説の編集者・沢口栄太郎から昭和を代表する推理作家・城之内和樹の探偵譚を聞くことになった。
昭和32年、鉄道の新線(恵那線)建設を陳情するため長野県清田村から上京していた村会議員の原渕剛造が殺され、裏金五十万円が入った鞄が奪われた。元子爵・奥平憲明の依頼で事件の捜査をするため清田村へ向かった推理作家の城之内和樹、憲明の娘で秘書兼助手の真優、沢口の3人を待ち受けていたのは、駅の設置場所で対立する村民たち、偏屈な村人・片田恒夫、開発事業への出資を募る怪しい不動産業者・折本充蔵、そして新たな事件だった――。
平易な文章なのでスラスラ読め(たまに城之内の台詞に横文字が入るのが鬱陶しいが)、キャラ立ちに関しては探偵役の城之内よりもヒロインの真優の方が立っています。
発展を夢見る地方の人々、頭では分かっていても〝新しい時代〟に適応できない者、戦争の影を引きずる者の姿が描かれており、終戦から12年経った高度経済成長期(詳しく言うと「神武景気」の終わり頃)の物語らしさが出ていてなかなか上手い。
ミステリーとしては犯人探しを軸にしているように見せて実は……という捻りがされていて、最終章でこの構図が明かされた時に「なるほど、こう来たか」と思ったものの、やられた感をあまり感じない。原因は原渕殺しの真相がつまらないためで、これをやるのであれば事件の真相をしっかりと面白いものにするべきだった。
おそらくシリーズ化されるだろうから、次作に期待したい(個人的には、鉄道ミステリに拘る必要はないと思う)。

希望と殺意はレールに乗って  アメかぶ探偵の事件簿

希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿

  • 作者:山本 巧次
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)