大谷羊太郎『やまびこ129号 逆転の不在証明』(立風ノベルス)★★★

溝口弓子は栃木県足尾山地の山岳自然公園で暴行され、数週間後、自殺した。
翌年、弓子の友人の河西幹子が自宅マンションで殴殺された。容疑者として恋人の佐伯政司が浮上するが、彼には事件当夜、三人に見送られて大宮駅から東北新幹線「やまびこ一二九号」に乗り宇都宮へ向かっていたという完璧なアリバイがあった—―。
八木沢庄一郎警部補シリーズ第6作。
同年発表の『東京青森夜行高速バス(「ラ・フォーレ号」)殺人事件』と同様にアリバイ崩しを主眼にした作品で、『夜行高速――』では十八番の機械トリックを使ったが本作では封印している。アリバイトリックはたいしたものではないものの使い方に工夫を施しており、最終盤まで二転三転させるプロット(タイトルをミスディレクションに使っている点も含めて)もいい。ただ、二転三転した末に暴かれる真犯人が問題で、このシリーズのお約束とは言え成功しているとは言い難い。
気合いが空回りした作品と言えるだろう。