笹沢左保『美女か狐か峠みち 追放者・九鬼真十郎2』(徳間文庫)★★★★

ある事件を起こして北町奉行遠山景元に重追放(死罪、遠島に次いで三番目に重い刑罰)を言い渡され、愛犬シロとともに各地を放浪する浪人・九鬼真十郎が行く先々で巻き込まれた事件を解決する連作シリーズ。
本書は1978年11月に桃園書房から刊行された第2集(最終巻)の文庫版。『月刊小説』1977年12月号〜1978年8月号に掲載された六編を収録。
「師走の風に舞う」(初出=『月刊小説』1977年12月号)
 師走、上州倉ヶ野。酔った若侍・浦辺錦四郎に無礼討ちされそうになった老祈祷師・天心恵水を助け、浦辺を斬った真十郎。浦辺の連れの侍三人(中山右近、富ヶ谷大助、田崎重兵衛)に果し合いを挑まれた真十郎は勝つため、予言的中率八割の天心恵水と六割のお真に空っ風が吹くかを予言させる――。
 正反対の予言をする天心とお真のどちらを信じるか、という話。真十郎ならではの論理が面白い。
「雪に桜の影法師」(初出=『月刊小説』1978年1月号)
 四月、東海道は袋井宿のはずれ。真十郎とシロは、犬の影法師と娘分のお甲を使って盗みを働く盗賊の儀十と出会った。「主人を裏切る犬だっている」と儀十。九十日ほど前、吹雪の夜に川越で仕事をした彼は信玄袋に入れた七十五両を影法師に結び付け走らせ合流場所で待っていたが、姿を現さなかったという――。
 珍しく真十郎が感情的になるエピソード。
「美女か狐か峠みち」(初出=『月刊小説』1978年2月号)
 藤堂藩領内のどこかに天正大判一万枚が埋められているという噂が伊勢参宮道筋で広まっていた。伊賀街道に入った真十郎とシロは笠取峠を越えようとするが、平山村で立ち往生してしまう。庄屋の仁右衛門の家に泊まることになった真十郎たちは、笠取峠の三本足のキツネが旅人を殺しているという話を聞く――。
 埋蔵金と三本足のキツネの事件が繋がるのはひと目だが、こういう展開になるとは思わなかった。
「禁じられた助太刀」(初出=『月刊小説』1978年4月号)
 東海道、関。動けなくなったシロを浜松の医師・弓田道玄の娘の綾に助けてもらった真十郎。彼女は母を浜松藩勘定方・大宮典膳に斬られ、仇討をするため助太刀をしてくれる武士を捜していた。だが、その仇討は禁じられた仇討だった――。
 どんでん返しが綺麗に決まった一本。笹沢らしい補助線が見事。
「死んだ女の用心棒」(初出=『月刊小説』1978年6月号)
 信州。大雪で宿に閉じ込められた友七、幸吉、お春、弁太、弥兵衛、九鬼真十郎の六人。酔った勢いでお春は二年前に嫁ぎ先で起きた殺人事件の犯人と思わせるため出奔したこと、この中に自分の用心棒がいることを語る。翌朝、納屋で絞殺されたお春の死体が発見され、真十郎は下手人を暴く――。
 シリーズ最高傑作。
「鉄火場に鶯が啼く」(初出=『月刊小説』1978年8月号)
 千曲川の河原で、雲助に輪姦されそうになっていたお妙を助けた真十郎とシロ。彼女は祖父で神里村の名主の中山作左衛門と一緒に善光寺で開かれる賭場に行くところだった。隠し米が藩にばれて罰金五百両を納めなければならなくなり、壺振りの伝造の協力でイカサマ博奕で調達するのだという――。
 シリーズ最終話。凡作。
第一集『江戸の夕霧に消ゆ』では「さすらいの狼」「むらさきの姫君」の2編が突出していた(前者ミステリではないけれど)が、本書は前巻以上に出来のいい作品が揃っている。「師走の風に舞う」「禁じられた助太刀」「死んだ女の用心棒」の3編が良い。
“誰が裏切るのか”が分かりやすいという弱点があるものの、〈木枯し紋次郎シリーズ〉に匹敵する本格ミステリ度を誇る本シリーズ、ひとりでも多くの人に楽しんでほしい。