「クルスの壺を探して! 探さないと、わたしは殺される」とメッセージを残し、一之瀬みちが失踪した。養女(で姪)ローザの友人である彼女は亡くなった大富豪の石渡大介の愛人で、クルスの壺は石渡家に代々伝わる家宝だった。元警視庁捜査一課の刑事で健康食品会社社長の高島源太はカバと名乗る男に社員ごと会社を誘拐され、一週間以内にみちを探し出さなければならなくなる。倉敷で大介の孫の絵津子が殺され、現地に向かった高島は妻でタレント弁護士の昌美が出演している番組のディレクターの富安の死体を発見する。石渡本家の石渡哲治が裏社会の人間であると知った高島は彼がカバであると推測、みちと交友があることも掴み、哲治の居場所を突き止め社員を救出しようとするが襲われ気を失い、海辺で目覚めると隣にはアナウンサーの羽田飛夫の死体が。釈放された高島は哲治の居場所を突き止め社員の救助に成功するが、事件の謎は残されたまま。高島は全ての謎を解き明かせるのか――。
ユーモア旅情ミステリーの〈殺人紀行シリーズ〉第1作。1984年6月刊。
『土曜ワイド劇場』で『雨の倉敷トリック殺人紀行』(主演:高橋英樹)のタイトルでドラマ化されている(1989年9月16日放送)。
最後まで残った謎の真相は残念としか言えないが、誘拐事件と連動したアリバイトリック(きちんと伏線が貼られている)が凄い。短編「朝の断崖」(『冷血の罠』[1979年7月刊]所収)や長編『月光の大死角』のトリックと比べるとバカ度は劣るが、豪快でよく練られていて面白い。
意外とまともなストーリーで文章も悪くないため、普通に楽しめる志茂田作品だと思う。
なお、シリーズは『雪の京都 殺人紀行』(1985年2月刊)『星の四国路 殺人紀行』(1986年4月刊)と続くが、この二作の出来についてはノーコメントということで。
(再読)
- 作者:志茂田 景樹
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