大谷羊太郎『西麻布 紅の殺人』(光文社文庫)★★★

事件は練馬区で起きた。梨村建築設計事務所の相川と北見は残業中、隣の鏑木商事ビルで社長の鏑木千一が銃撃されるのを目撃。二人は急行するが鍵がかかっていて部屋に入れず、通報するため事務所に戻った相川は、室内で鏑木の射殺体を発見する。
所変わって、西麻布のディスコ「コメッツ・クラブ」。五年前に病死した母・冴子の「七夕の夜に守沢健司と再会する」という願いを叶えるため店に通う咲村早苗、怪我をした叔父・守沢健司の代理として冴子と会い守沢の家に連れてくるため店に通う増川良樹、早苗の顔を見てサリー弓岡(冴子の芸名)を思い出した元バンドマンで店のオーナー・幹本容一の三人は運命の出会いを果たし、守沢の家に行く計画を立てるのだった。
一方、捜査が難航する中、八木沢警部補は鏑木の古い住所録から咲村冴子の名を見つけ二人の繋がりを探り始めた矢先、守沢が殺される――。
「〝旅情ミステリー・ゾーン〟シリーズ第1弾」と銘打たれて刊行された〈八木沢庄一郎警部補シリーズ〉第3作(第2弾は出なかった)。
十八番の芸能界ネタを絡めた長編。
魅力的な不可能犯罪はそのままに意外な犯人の演出にある程度成功しており、前作『越後七浦殺人海岸』の悪い所が修正されていると感じた。「盲点を突いているがたいしたトリックではない」「登場人物が少ないため犯人の見当がつけやすい」という弱点はあるが、悪い出来ではない。
大谷は「ロマンと謎とを、私なりに工夫して融合させてみたつもり」とカッパ・ノベルスの「著者のことば」書いているがこの言に偽りはなく、本作はシリーズの方向性が決まった重要作と言えるだろう。
(再読)