西村京太郎『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』(光文社文庫)★★★★

ブルートレインの人気の秘密を探るため、「週刊エポック」の記者・青木は東京発西鹿児島行きの下り寝台特急はやぶさ〉に乗り込んだ。薄茶のコートを着た女に魅かれた彼は思わず写真を撮るが、フィルムを盗まれてしまう。その後、青木は奇妙な体験をすることになる……。
翌日、多摩川に薄茶のコートを着た若い女の溺死体が浮かんでいた。川から発見されたハンドバッグから青木の名刺が発見される。十津川は本多一課長から呼び出され、ハンドバッグから青木の名刺の他に運輸大臣・武田信太郎の名刺があったと告げられる。その名刺は、二年前の五億円詐取事件に利用されたのと同じものだった。二つの事件に関連はあるのか、一課長は十津川に捜査を命じた――。
十津川省三警部シリーズ第9長編で、記念すべきトラベル・ミステリー第1作。西村の出世作であり、綾辻行人との対談で自選ベスト5に選出されている。
本作は『赤い帆船』と同様に十津川が犯人にいいようにやられる話(方向性は異なるが)なのが興味深い。
本格ミステリとして見た場合、穴がボロボロあって話にならないが、サスペンスでグイグイ引っ張るタイプの作品なので気にならない。使われているトリックの1つは松本清張も使っているが、本作刊行時には未刊(連載は終了していた)なので知らなかったのかもしれない。
本格ミステリとしては出来は良くないが、サスペンスとしてはかなり面白い作品だと思う。
ところで、犯人(というか首謀者)の設定に気になる部分があるのだが、あれはどういう意図があったのだろう?