小島正樹『十三回忌』(原書房)★★

静岡県のみならず東海地方の政治・経済に多大な影響力を持つ宇津城(うつしろ)家。昭和48年7月17日、二代目当主恒蔵の妻・律子が水死体で見つかる。外傷がなかったため警察は入水自殺と判断するが、恒蔵の妾・谷内田(やちだ)杏子が妻の座を得るために殺害したのではとの噂が一部で囁かれた。一周忌、杏子の長女・夏澄が高さ3メートル半ある木の先端に串刺しとなる。三回忌、次女・ゆかりが木に縛られ、首なし死体で発見される。七回忌、三女・未帆の死体が上下の唇が切り取られた状態で発見される。そして十三回忌。恒蔵は静岡県警捜査一課三係の笠木刑事の友人で、晴耕雨読の生活を送る探偵・海老原浩一に事件の調査を依頼する。
※ネタをばらしています。
ソロデビュー作。淡白な文章で読みやすいのは良いが、ところどころ改行にいらつく。キャラクターは立っていない。トリックはバカミス的な物が多くて楽しめた(首切断トリックは霞流一っぽくてGOOD)が、ある人物を犯人と思わせようとして施している叙述トリックはダメ。「最後の一撃」を狙っているのだろうが、犯人が見えみえなので、効果的とは思えない。謎解きシーンには、「解きゃあいいんだろ、解きゃあ」といった投げやりな印象を持った。解き明かす謎の順番等を考慮してもいいのではないだろうか*1。読物としては盛り上がりに欠けるうえに平板で深みがないため、長い推理クイズを読んでいるような感じを受けた。

十三回忌 (ミステリー・リーグ)

十三回忌 (ミステリー・リーグ)

*1:自分が本格ミステリに求めるものの一つに「美しい解」がある。提示した数々の謎を、美しく流れるような手順(あるいは順番)で解き明かすというもの。優れた本格ミステリは、謎の見せ方は勿論のこと解法にも気を配っている。残念ながら、本作の謎解きシーンは非常に醜かった。