少年名探偵と怪人どくろ男爵、時空を越えて対決す!(帯の惹句)
「物語」を愛する作者から、「物語」を愛する人たちへの贈り物――それが『黄金夢幻城殺人事件』。まずは収録作の粗筋とメモ。
「黄金夢幻城」(書き下ろし)
夕蝉姫を捜す旅に出た若き剣士・斑鳩雪太郎。山賊に騙され鋸岳の崖から転落するも、蔓草に掴まり九死に一生を得る。その直後、山賊が“鋸岳の異人”の妖術で殺され、“鋸岳の異人”を尾行した雪太郎は、彼が夕蝉姫の名を口に出したのを聞き、黄金夢幻城に潜入する…。少年探偵・七星スバルは、護持院ヶ原という男の依頼で羊皮紙の解読をするが、護持院ヶ原は宿敵・怪人どくろ男爵の変装だった。羊皮紙を奪われ麻酔ガスを吸わされたスバルは、薄れゆく意識の中でどくろ男爵が『黄金夢幻城』と口にしたのを聞き逃さなかった。どくろ男爵を追い、スバルは黄金夢幻城を目指す――。
ジュヴナイル。探偵小説と伝奇時代小説が好きな者にはたまらない作品。どんな展開になろうとも、論理(ロジック)に揺るぎはない。
「中途採用捜査官:忙しすぎた死者」(初出=『週刊小説』1997年3月7日号)
私、鴻坂之敏は中途採用で大阪府警に採用された捜査官。知能犯を受け持つ本部捜査二課に配属された私は、現在《イシュタール》の不正経理を調べていた。経理部長が保養所で死亡したとの連絡が入り現場に向かった私は、死体の顔を見て驚く。一昨日、私の住むマンションの玄関前で、建物をじっと見上げていた男だったのだ――。
一般向け小説。中途採用の刑事という設定はいいが、鴻坂のキャラクターが弱いのがシリーズ化されなかった原因か。読了後、タイトルに仕掛けられたダブル・ミーニングに気付きニヤニヤ。
「ドアの向こうに殺人が」(初出=『コバルト』1998年2月号)
四月半ば。城川真由・本堂耕矢・曽我涼太・趙明麗の四人は、ファミリーレストラン《ムッシュー・ルコック》若野町店にいた。二人の男にしつこく勧誘されている若い女性を救う作戦を決行した矢先、四人は死体に出くわす――。
ヤングアダルト小説。「殺人喜劇のC6H5NO2」(『探偵宣言』収録)の初出版及びノベルス版に登場するも、文庫版では差し替えられた幻の探偵が活躍する短篇。冒頭のアレが伏線だったとは! 唯一の未読作だったので、読めて嬉しかった。
「北元大秘記――日本貢使、胡党の獄に遭うこと」(初出=『チャイナ・ストーリーズ 黄土の虹』)
明徳元年(元中七年)、遣明船の綱司(船長)として明に入国した維明は、身に覚えのない容疑で投獄される――。
歴史小説(中華小説)。長篇の序章。続きを読みたいけど、無理だよなぁ……。
「燦めく物語の街で」(初出=毎日新聞「超短編パノラマ館」2003年-2004年+書き下ろし)
毎日新聞日曜版に連載されたショートショート(本書収録以外の作品は、『迷宮パノラマ館』で読めます)に書き下ろしを追加したミニ作品集。
収録作を分類すると、パロディ・歴史・社会風刺の3パターン。「党首インタビュー」「秘録・武蔵と小次郎」「究極の警察」「究極のコピーライター」がお気に入り。
「黄金夢幻城殺人事件」(初出=あぁルナティックシアター公演台本)
かつての銀幕スター・夢宮幻太郎の死から二十五年。黄金夢幻城に集められた七人の相続候補者たち。血縁関係のないうら若き女性が相続者に選ばれ、惨劇の幕が開く――。
戯曲。森江春策シリーズ。無理を押して観劇するべきだったと後悔。
「「黄金夢幻城殺人事件」殺人事件」(書き下ろし)
「黄金夢幻城殺人事件」上演中、男が刺殺された。警察が到着するまでの間、劇団の面々が話し合っていると、客席にいた背広の男が推理を述べ始める――。
どっひゃー! ま、参りました。
短編集のような、連鎖ミステリのような、なんとも奇妙な一冊。本書の根底にあるのは、「物語」への熱い想い。「少年探偵・七星スバルが様々な物語を横断し、黄金夢幻城をめざす」という設定のもと様々な物語と出会い、知らず知らずのうちに虚と実の狭間に迷い込む。虚と実が融合する「「黄金夢幻城殺人事件」殺人事件」で物語の幕は閉じるが、物語の世界に取り残されてしまったというか、何とも言い難い読後感に囚われた。『グラン・ギニョール城』からはじまる、虚と実の揺らぎを追求した一連の芦辺流メタミステリの秀作です。
(いろいろと書きたいことがあるのに、半分も書けなかった……)
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